
朝起きたとき、顎が疲れていると感じたことはありませんか?
家族から「夜中に歯ぎしりをしている」と指摘されたり、歯科医院で「歯がすり減っている」と言われたりした経験がある方も少なくないでしょう。歯ぎしりは単なる癖ではなく、歯や顎に大きな負担をかける習癖です。
歯ぎしりの原因は多岐にわたり、ストレス、咬み合わせの問題、睡眠障害など、人によって異なります。そのため、効果的な治療を行うには、まず自分の歯ぎしりの原因を理解することが大切です。
本記事では、歯科口腔外科医として長年の臨床経験を持つ私が、歯ぎしりの原因別に適した治療法を詳しく解説します。マウスピース療法から行動療法まで、最新の診療ガイドラインに基づいた治療アプローチをご紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
歯ぎしり(ブラキシズム)とは何か
歯ぎしりは、医学的には「ブラキシズム」と呼ばれる口腔内の悪習癖です。
通常、人間の上下の歯がかみ合っている時間は1日15〜20分程度とされています。しかし、歯ぎしりをする方は、無意識のうちに長時間にわたって歯をかみ合わせたり、擦り合わせたりしてしまいます。
ブラキシズムには主に3つのタイプがあります。
グラインディング(歯のこすり合わせ)
上下の歯をギリギリと擦り合わせる習癖です。
下顎を左右に動かしながら歯を擦り合わせるため、特徴的な音が出ます。就寝時に無意識に行っているため自身では気づきにくく、家族やパートナーに指摘されることが多いタイプです。朝目覚めると顎が疲れていたり、歯が全体的にすり減っていたりする症状で自覚することもあります。

クレンチング(歯のかみしめや食いしばり)
上下の歯を強くかみしめてしまう行為を指します。
就寝時や日中でも無意識のうちに行ってしまうケースが多く見受けられます。垂直方向にかみ込む行為であるため、グラインディングのように音を立てることはありません。そのため、本人や家族も気づきにくい傾向にあります。
タッピング(歯のカチカチ音)
上下の歯をカチカチと咬み合わせる習慣のことを言います。
比較的まれなタイプですが、音がするため周囲に気づかれやすい特徴があります。

歯がしみるのはなぜ?知覚過敏の原因と治療法・受診のタイミングを解説
冷たいものや甘いものを口にしたときに歯がしみる場合、知覚過敏の可能性があります。本記事では、歯がしみる原因や知覚過敏の仕組み、治療方法や受診のタイミングについてわかりやすく解説します。
歯ぎしりが引き起こす悪影響
歯ぎしりを放置すると、さまざまな悪影響が現れます。
歯の咬み合う面がすり減ってしまったり、歯肉に負担をかけたりするだけでなく、知覚過敏を進行させることもあります。さらに、顎関節症のリスクを高めたり、頭痛や肩こりなどの原因となったりすることもあるのです。
歯への影響
歯ぎしりによって歯がすり減ると、エナメル質が薄くなり、象牙質が露出します。
これにより知覚過敏が起こりやすくなり、冷たいものや熱いものがしみるようになります。また、歯が欠けたり割れたりするリスクも高まります。過去に治療した詰め物や被せ物が外れやすくなることもあります。

歯周病への影響
歯ぎしり自体は歯周病の直接の原因とはなりません。
歯周病の直接的な原因はプラークですが、すでに歯周病を発症している場合は、歯ぎしりによって歯周病の進行が加速することがわかっています。歯ぎしりによる過度な力が歯を支える骨に負担をかけ、歯周組織の破壊を促進してしまうのです。
顎関節症への影響
歯ぎしりをするときに上下の歯にかかる力は、通常の食事の際の力に比べて非常に強いため、顎関節にかかる負担が大きくなります。
これが顎関節症の原因になることがあります。口を開けると顎が痛む、口が大きく開かない、口を動かすとポキポキと音が鳴るといった症状が現れることがあります。
全身への影響
歯ぎしりは口の中だけの問題ではありません。
慢性的な頭痛や肩こり、腰痛、目まいや耳鳴りなど、体の至るところに悪影響を及ぼすリスクがあります。これは、歯ぎしりによって顎周りの筋肉が過度に緊張し、その影響が首や肩、背中へと広がるためです。
歯ぎしりの原因を理解する
歯ぎしりが起こるメカニズムは完全には明らかになっていません。
しかし、一般的にはいくつかの要素によって歯ぎしりが起こるとされています。原因を理解することが、適切な治療法を選択する第一歩となります。

ストレスが最大の要因
歯ぎしりの原因のほとんどはストレスだと言われています。
私たちは、寝ているとき無意識に歯を食いしばることで、不安や憂うつな気持ちを解消しているようです。歯がかみ合う刺激は脳へ伝わり、ストレスを緩和させる作用が働きます。ガムをかむとストレス発散になるのもその効果です。
ストレスを感じると、無意識のうちに脳への刺激を求め、歯ぎしりや食いしばりをしてしまうと考えられています。ストレスは身体へ大きな影響を与えるものであり、ストレスが増えると食いしばりや歯ぎしりをしてしまう回数も多くなる傾向にあります。
咬み合わせの問題
咬み合わせが悪い人は歯ぎしりが起こりやすいと言われています。
咬み合わせたときに、特定の歯だけが強く接触していたり、詰め物・被せ物が高過ぎてぶつかっていたりすると歯ぎしりの原因となることがあります。また、歯並びの乱れも咬み合わせのズレを生じさせ、バランスが崩れうまくかむことが難しくなります。
特に開咬や過蓋咬合といった不正歯列などは、無意識のうち奥歯でかんでしまい、食いしばりや歯ぎしりを行う傾向にあります。上下のかみ合わせがズレていると、かみやすい部位ばかりで食べものをかむようになり、口周りの筋肉や顎関節にも負担がかかっているケースも少なくありません。
睡眠環境の影響
枕の高さが合わない時に歯ぎしりや食いしばりを誘発してしまうケースもあります。
枕が身体に合わず高さがある枕であると、顎を引いた状態になってしまい気道が狭くなったり、肩や首に負担がかかってしまったりします。これらの状態はリラックスした睡眠状態とはいえずストレスを感じてしまうため、歯ぎしりや食いしばりが誘発されると考えられています。

集中時の習慣
人は物事に集中していると、無意識のうちに能力を最大限に引き出そうとする力が働き、上下の歯をかみ込む傾向にあります。
スポーツをしている時、勉強をしている時、パソコンをしている時、デスクワークをしている時、趣味に没頭している時など、食いしばる場面はさまざまです。集中時に食いしばらないように、意識することも大切です。
飲酒・喫煙の影響
因果関係は明確になっていませんが、お酒やタバコが原因で歯ぎしりが起こるという説もあります。
アルコールやニコチンの摂取は、歯ぎしりの症状を悪化させるリスクがあると言われています。できるだけ量を控えるようにすることで、歯ぎしりが減る可能性もあります。
歯ぎしりの診断方法
歯ぎしりは、眠っている間に無意識に行っていることから、自覚していない人が多いようです。
一人暮らしなどで家族に歯ぎしりを指摘してもらえないという場合には、歯のすり減り具合により、歯科医院で診断してもらいます。
歯ぎしりのセルフチェック
以下の項目に当てはまる方は歯ぎしりをしている疑いがあります。
- 朝起きたとき奥歯が痛い
- 朝起きたとき顎が痛い・疲れている
- 慢性的な頭痛・肩こりがある
- 歯が欠けたり割れたりしたことがある
- 頬の内側に噛んだ跡がある
- 集中しているとき、無意識に歯を食いしばっている
- 舌の外側が歯並びに沿ってデコボコしている
これらの症状がある場合は、早めに歯科医院を受診することをおすすめします。

歯科医院での診断
歯科医院では、以下のような方法で歯ぎしりの診断を行います。
まず、歯の咬耗状態を確認します。歯ぎしりをしている方は、歯の先端や咬み合わせの面が平らにすり減っていることが多く見られます。また、歯の表面に細かいひび割れが入っていることもあります。
次に、顎関節や咬筋の状態をチェックします。顎関節に痛みや雑音がないか、咬筋が過度に発達していないかを確認します。さらに、口腔内全体を観察し、頬の内側に咬んだ跡がないか、舌の側面に歯型がついていないかなども確認します。
必要に応じて、睡眠時の歯ぎしりを記録する装置を使用することもあります。
原因別の治療アプローチ
歯ぎしりの治療は、原因に応じて適切な方法を選択することが重要です。
ここでは、主な原因別に効果的な治療アプローチをご紹介します。
ストレス性歯ぎしりの治療
ストレスが原因の歯ぎしりには、ストレス管理が根本的な解決法になります。
運動・ストレッチをしたり、寝る前に好きなことをする時間をつくったりと、自分に合ったストレス解消法を見つけることが大切です。ただし、現代社会においてストレスをなくすのは簡単なことではありません。
そのため、ストレス解消に努めていただくと同時に、歯ぎしりによって歯がすり減ってしまうのを防ぐ対症療法も必要です。具体的には、マウスピース(ナイトガード)を使用した治療が効果的です。

咬み合わせ異常による歯ぎしりの治療
咬み合わせの問題が原因の場合は、補綴治療で咬み合わせを改善することで、歯ぎしりの解消につながることがあります。
補綴治療とは、例えば、詰め物・被せ物が高過ぎてぶつかっている場合に、それを調整・交換する治療です。また、歯並びそのものを整える矯正治療によって歯ぎしりを軽減できるケースもあります。
当院では、患者さんの咬み合わせを詳しく診査し、必要に応じて適切な治療計画を立案します。
睡眠環境改善による治療
睡眠環境が原因の場合は、生活習慣の改善が効果的です。
横向きやうつ伏せで寝ると歯や顎に圧力がかかり、歯ぎしりの症状を悪化させるリスクがあります。できるだけ低めの枕で、仰向けで寝るようにしましょう。また、寝る前のアルコールやカフェインの摂取を控え、リラックスした状態で就寝することも大切です。
集中時の食いしばり対策
日中の食いしばりには、認知行動療法が有効です。
まず、自分が食いしばっていることに気づくことが重要です。デスクやパソコンに「歯を離す」などのメモを貼り、定期的に意識するようにしましょう。気づいたときに深呼吸をして、顎の力を抜く習慣をつけることが大切です。
マウスピース療法(スプリント療法)の詳細
マウスピース療法は、歯ぎしり治療の中心的な方法です。
就寝時にプラスチックまたはゴム製のマウスピース(ナイトガードともいいます)を使用することで、歯や顎関節にかかる負担を軽減します。

マウスピース療法のメリット
マウスピースを付けていれば、睡眠中に歯ぎしりをしても、歯がすり減ったり欠けたりするのを防ぐことができます。
また、マウスピースの硬さや形状を調整することで、歯ぎしりそのものの回数を軽減できるケースもあります。もちろん、マウスピースを付けていれば歯ぎしりの音もしなくなります。
マウスピースの種類と特徴
マウスピースには、硬いタイプと柔らかいタイプがあります。
硬いタイプは耐久性が高く、長期間使用できます。一方、柔らかいタイプは装着感が良く、初めての方でも違和感が少ないという特徴があります。患者さんの歯ぎしりの程度や顎の状態に応じて、最適なタイプを選択します。
保険適用について
スプリント療法は保険が適用となります。
歯科医院で型を摂って作製したマウスピースは、市販のものと比べて精度が高く、フィット感も優れています。当院では、患者さんのお口にぴったり合うマウスピースを製作いたします。
マウスピース使用時の注意点
マウスピースは毎日使用することが大切です。
使用後は水で洗い、専用のケースに保管してください。定期的に歯科医院でチェックを受け、すり減りや破損がないか確認することも重要です。マウスピースに問題があれば、調整や作り直しを行います。

その他の治療法と併用療法
マウスピース療法以外にも、歯ぎしりの治療法はいくつかあります。
患者さんの状態に応じて、複数の治療法を組み合わせることで、より効果的な治療が可能になります。
薬物療法
筋肉の緊張を和らげる薬や、ストレスを軽減する薬が処方されることがあります。
ただし、薬物療法は対症療法であり、根本的な解決にはなりません。医師の指示に従って適切に使用することが大切です。
ボツリヌス療法
咬筋にボツリヌストキシンを注射することで、筋肉の過度な緊張を和らげる治療法です。
効果は数ヶ月持続しますが、自由診療となります。重度の歯ぎしりで他の治療法が効果的でない場合に検討されることがあります。
理学療法
顎関節や咬筋のマッサージ、温熱療法などを行います。
筋肉の緊張をほぐし、血行を改善することで、歯ぎしりに伴う痛みや不快感を軽減します。自宅でできるセルフケアの方法もお伝えします。

認知行動療法
日中の食いしばりや歯ぎしりに対して、行動パターンを変える訓練を行います。
自分の習慣に気づき、意識的に改善していくことで、無意識の歯ぎしりも減少することが期待できます。
歯ぎしり治療における注意点
歯ぎしりの治療を成功させるには、いくつかの注意点があります。
継続的な治療が重要
歯ぎしりは一度治療すれば完治するというものではありません。
ストレスや生活環境の変化によって再発することもあります。定期的に歯科医院を受診し、経過を観察することが大切です。マウスピースの調整や、新たな治療法の追加が必要になることもあります。
セルフケアの実践
歯科医院での治療と並行して、自宅でのセルフケアも重要です。
ストレス管理、適切な睡眠環境の整備、日中の食いしばりへの意識など、日常生活の中でできることを実践しましょう。これらの取り組みが、治療効果を高めることにつながります。
他の疾患との関連
歯ぎしりは、睡眠時無呼吸症候群などの睡眠障害と関連していることがあります。
いびきがひどい、日中の眠気が強いなどの症状がある場合は、睡眠専門医への相談も検討してください。全身的なアプローチが必要になることもあります。

よく歯科での歯ぎしり治療
当院では、患者さん一人ひとりの状態に合わせた歯ぎしり治療を提供しています。
総合病院の歯科口腔外科で長年勤務した経験を活かし、顎関節症や歯ぎしり・食いしばりの治療では、マウスピース治療を中心に、包括的なアプローチを行っています。
精密な診査・診断
まず、詳しい問診と口腔内診査を行い、歯ぎしりの原因を特定します。
歯の咬耗状態、顎関節の状態、咬筋の緊張度などを総合的に評価し、患者さんに最適な治療計画を立案します。必要に応じて、他科との連携も行います。
オーダーメイドのマウスピース
患者さんのお口にぴったり合うマウスピースを製作いたします。
精密な型取りを行い、咬み合わせを考慮した調整を行います。装着後も定期的にチェックし、必要に応じて調整を行いますので、安心してご使用いただけます。
皮膚科との連携
当院は皮膚科と併設しています。
そのため、口腔粘膜疾患や金属アレルギーなど、歯ぎしりに関連する全身的な問題にも対応できます。必要に応じて、栄養療法(オーソモレキュラー療法)などもご案内が可能です。

有病者の方も安心
持病のある方にも安心して歯科治療を受けていただけるように、体調に配慮しながら診療を心がけております。
服用中のお薬なども含めて初診時にしっかりお話をうかがい、お一人お一人に合った治療を行います。検査の結果、医科をはじめとする他分野の治療を優先するべきだと判断した場合は、地域の他院や病院と連携して対応します。
まとめ
歯ぎしりは、ストレス、咬み合わせの問題、睡眠環境など、さまざまな原因によって起こります。
原因を正しく理解し、それぞれに適した治療法を選択することが、効果的な改善につながります。マウスピース療法を中心に、生活習慣の改善や補綴治療など、複合的なアプローチが重要です。
「歯ぎしりくらい大丈夫」と考えていると、気づかないうちに大切な歯や顎が大きなダメージを負ってしまうかもしれません。朝起きたときの顎の疲れ、歯のすり減り、慢性的な頭痛や肩こりなど、歯ぎしりの症状に心当たりのある方は、早めに歯科医院を受診することをおすすめします。
当院では、患者さんの症状や原因に応じた最適な治療を提供しています。歯ぎしりでお悩みの方は、ぜひ一度ご相談ください。いつまでも健康な歯と顎を保つために、しっかりと対策をしていきましょう。
歯ぎしりや食いしばりでお困りの方は、よく歯科までお気軽にご相談ください。福山市松永駅から徒歩13分、土曜日も診療を行っております。
著者情報
よく歯科 院長 伊藤 翼

経歴
2007年3月 北海道医療大学歯学部歯学科 卒業
2007年4月 広島大学病院 歯科研修医
2012年4月 広島大学病院 顎・口腔外科 医員
2015年4月 JA尾道総合病院 歯科副部長
2022年4月 JA尾道総合病院 歯科主任部長
資格・所属
広島大学 博士号
歯科研修指導医
日本口腔外科学会 認定医
緩和ケア研修指導医師
日本口腔科学会 認定医
日本嚥下リハビリテーション学会 認定士
日本抗加齢医学会 専門医
日本口腔外科学会
日本口腔科学会
日本緩和医療学会
日本嚥下リハビリテーション学会
日本経腸静脈栄養学会
日本スポーツ歯科医学会
日本口腔ケア学会
日本抗加齢医学会
広島県歯科医学会
